福岡市民病院

麻酔科

診療内容

当院手術症例の特徴と麻酔管理上の要点

ここ5年間の麻酔科管理症例の推移を図1にお示しします。令和2年度は、新型コロナ感染症の影響もありましたが、総手術件数2,000例前後で推移しています。手術件数は多いですが、効率の良い手術室の運営を行うことで、出来る限り定例時間外の手術室稼働を押さえていこうと努力しています。

麻酔管理症例の高齢化は昨年と同様であり、昨年度も75歳以上の症例374例(41%)と300例を超しており、そのうち90歳以上の超高齢者は31例でした。
また、アメリカ麻酔学会における全身状態分類(ASA-PS)において重症であるClass III以上の合併疾患をお持ちの患者さんは211例(23%)と、昨年度と同程度の割合でした。

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当院における過去5年間の手術件数の推移

当院における過去5年間の手術件数の推移グラフ

麻酔管理の概要

各科と綿密な連携をとった上で患者さんの全身状態の評価を行い、合併疾患の重症度を把握して、麻酔関連偶発症の発生を予防する努力をしています。特にご高齢の患者においては全身疾患が隠れている場合がありますので、関係各科にご協力を依頼して全身精査を行っています。各科のカンファレンスにおいて手術症例を提示していただき、検査や説明内容の追加指示があれば行っています。
麻酔管理では、超短時間作用型麻酔薬(レミフェンタニルやデスフルラン)を使用し、速やかな覚醒と安全な麻酔管理を心がけています。

術後鎮痛には、硬膜外麻酔を施行した症例では、硬膜外PCA(PCA:患者自己鎮痛法)を積極的に取り入れています。
神経ブロックの使用も増加しています。最近は抗凝固療法・抗血小板療法を行っている患者が増加し、血液凝固障害(肝機能低下や抗凝固療法中)・血小板数減少など、硬膜外麻酔による鎮痛を施行することができない患者が増加しています。このような患者さんに術後神経ブロックを施行することで鎮痛をはかっています。腹部手術で硬膜外カテーテルを留置できない場合は腹直筋鞘ブロックや腹横筋膜面ブロックを行っています。整形外科の膝関節置換術の術後には下肢静脈血栓塞栓症の予防に抗凝固療法を行うため、硬膜外カテーテルは留置せず、持続大腿神経ブロックを行い、良好な鎮痛を得ています。

合併疾患への対応

合併症のある患者さんにも安全に麻酔をかけることができるよう、対策を行っています。

  1. 心疾患

    虚血性心疾患や弁膜症、不整脈などの心疾患を合併している患者さんについては、循環器内科の先生方に心機能の評価をしていただき、厳密な周術期管理を行っています。必要であれば心疾患の治療を優先することもあります。

  2. 肝腎疾患

    肝・胆・膵センターや腎臓内科を有しているため、肝硬変や肝腫瘍などの肝疾患、糖尿病性腎症などで人工透析中の症例や慢性腎不全症例も多くいらっしゃいます。肝腎機能の低下は麻酔薬の代謝に影響を及ぼし、薬剤の排泄が遅延するため特に麻酔覚醒に大きな影響を及ぼします。ゆえに肝腎疾患をお持ちの患者さんには、使用する薬剤の種類、投与量に注意して麻酔管理を行っています。また周術期の肝機能、腎機能の悪化防止にも努めております。

外科・血管外科手術の概要

外科・血管外科の症例の特徴としては、特に消化管手術や肝臓手術での腹腔鏡下手術の増加があげられます。手術侵襲は低くなりますが手術時間は増加するため、手術件数の増加に比して手術室稼働時間の増加が多くなっています。手術体位も長時間の頭低位などになるため、マジックベッドの使用や除圧パッドの使用で圧迫による障害を防いでいます。輸液管理や体温管理にも細心の注意を払っています。

整形外科手術の概要

整形外科では脊椎症例が293例と全症例の53%を占めており、後方固定術での腹臥位での管理・頸椎症などの挿管困難を伴う気道管理など、特殊な麻酔管理が必要とされています。また昨年度も大腿骨頸部骨折などの外傷患者の搬送も多く、骨接合術や人工骨頭置換術などの麻酔を行っています。特に大腿骨頸部骨折は高齢者に多いことから、認知症や心疾患、脳血管疾患などを合併症すること多く、また受傷から時間が経過すると全身状態が悪化することも多いため、厳密な管理を行い、またできる限り早期に手術できるよう調整しています。

脳神経外科手術の概要

脳腫瘍や脳動脈瘤頸部クリッピング術などの定例手術の外に、くも膜下出血や脳出血、頭部外傷などの緊急手術も行っています。ここ最近は脳機能モニター(運動誘発電位、体性感覚誘発電位)をほとんどの症例で装着しております。一部の麻酔薬がモニター結果を修飾することが報告されておりますので、影響を与えにくい麻酔薬を使用して麻酔を行っています。緊急手術にも出来る限りスムーズに対応できるよう心がけています。 手術室内での麻酔だけでなく、関係各部署の協力のもと、血管造影室でも全身麻酔を行っています。血管造影室で脳動脈瘤に対する全身麻酔下コイル塞栓術は昨年で37症例におよび、より良い治療環境の提供と低侵襲の治療による患者負担の更なる軽減を目標としております。

緊急手術

緊急手術(来院当日に手術)は179例と昨年と比較して微増でありますが、1~3日待機して手術を行う準急患手術は逆に増加しております。手術室稼働時間の増加で、救急部を受診した急患のうち、骨折など待機できる手術は待機していただいてから手術を行っていただいています。緊急度の高い手術は勿論当日に手術をしていただいています。

周術期管理について

術前の不安を軽減するために麻酔科医と手術室看護師で事前に十分な説明を行っています。術前診察で可能と判断した患者さんにおいては、搬入3時間前までの飲水(経口補水液)を許可しています。

前投薬には基本的に鎮静薬は用いず(患者さんの希望があれば行っています)、歩行可能な患者さんには歩いて手術室内に入っていただいております。歩行が不可能な患者さんには従来通りストレッチャーまたは車いすでの入室を行っています。前投薬をなくすことで鎮静剤投与でのふらつき、点滴中の転倒も防止できると考えられます。
患者取り違え事故防止の取り組みの一環として、手術室入室時に患者さん本人に氏名と手術部位、左右の別を言ってもらうことにより事故防止に協力していただいており、手術申込書でのダブルチェックを行っています。さらに、手術開始前のタイムアウトにおける名前・術式・左右の確認、手術室退室前のサインアウトにて術式と術後の注意事項の確認を外科医・看護師とともに行っており、情報の再確認と共有を心がけています。

麻酔科管理症例に対しては必ず術後回診を行っています。これにより麻酔に関連する偶発症の早期発見や術中管理のフィードバックを行っています。また、術後必要な症例には集中治療室での術後管理を行っています。

今後の課題と展望

麻酔はこの10年で使用薬剤も変化し、安全性は格段に向上してきております。それでも起こりうる麻酔関連偶発症を予防し、発生した場合は迅速に対処できるよう、当院では全スタッフが責任を持って手術室の安全管理を行っております。

合併症の防止

周術期の合併症については、その発生の予防に重点を置いています。また、合併症が発生した場合は可能な限り迅速な対応につとめております。 合併症の予防にはまず正確な術前患者評価が不可欠です。外科、整形外科、脳外科の術前カンファレンスに積極的に参加し、事前に患者状態を把握、必要ならば追加検査をお願いしております。患者診察は可能な限り早めに行い、状態把握につとめております。

手術室搬入後は患者さんやモニターの注意深い観察を行い、状態変化を少しでも早く発見し、手術終了後には安全な状態で手術室を退室できるよう努力しています。セントラルモニターを廊下や控え室に設置してより安全性があがるよう努めています。また、特に側臥位や腹臥位では、体位による神経損傷や褥瘡を防止すべく、看護師や外科医と協力して良肢位の確保につとめております。

静脈血栓塞栓症の予防に関しては、全症例をリスク分類し、弾性ストッキングの着用、術中・術後のフットポンプ使用などにより防止に努めています。

救急症例に対して

救急症例の手術では、より迅速かつ的確な術前評価と準備、術中管理が要求されます。脳卒中センターの開設, 救急告示により、緊急手術が増加しております。救急部・集中治療部との連携を深めて 救命率と安全性をより向上させるため、麻酔手技や管理の向上に努めたいと考えております。

医師紹介

医師紹介

名前 杉部 清佳(麻酔科科長)
出身教室 九州大学医学部麻酔科蘇生科
専門医・認定医

日本麻酔科学会指導医・専門医
厚生労働省認定麻酔科標榜医

専門分野

手術麻酔

モットー

患者様の安心・安全を第一に考え麻酔を行います。

名前 春田 怜子
出身教室 九州大学医学部麻酔科
専門医・認定医

麻酔科認定医、麻酔科専門医、麻酔科標榜医

専門分野

手術麻酔

モットー

不安なく手術を受けていただけるよう頑張ります

 
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