肝臓外科(肝臓・胆のう・膵臓)
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肝胆膵センターでは肝臓・胆道・膵臓に関する疾患に対して、専門性を持った肝臓外科・肝臓内科・放射線科が互いに連携し、診断・治療にあたります。個々の患者さんに最適で過不足のない治療、安全・確実な医療を提供するように努めています。最新の治療法を取り入れ、臨床研究を行い学会・論文に報告しています。当院は日本肝胆膵外科学会の高度技能専門医修練施設に認定されています。
診療内容
肝臓 肝悪性腫瘍(肝細胞癌、肝内胆管癌、転移性肝癌など)、肝良性腫瘍(肝血管腫、肝腺腫、限局性過形成性結節など)、脾臓疾患(特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、肝硬変に伴う脾機能亢進症、脾腫瘍など) 胆道 胆のう癌、肝外胆管癌、肝門部胆管癌、十二指腸乳頭部癌、胆管内乳頭状腫瘍(IPN-B)、急性胆のう炎、胆のう結石症、胆のう腺筋腫症、総胆管結石 膵臓 膵癌、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、膵粘液性襄胞腫瘍(MCN)、膵漿液性襄胞腫瘍(SCN)、膵神経内分泌腫瘍(P-NET)、Solid-pseudopapillary neoplasm(SPN)、転移性膵腫瘍など) 診療実績
図1.2023年度肝胆膵外科手術の内訳
肝がんに対する外科治療
平成元年に福岡市民病院開院以来肝癌に対する外科治療は内科、放射線科と連携して治療を行っており、安心、安全、確実な治療を患者さんに提供するよう、福岡県における専門施設として重要な役割を果たしてきました。原発性肝がんに対しての肝切除術の長期治療成績は5年生存率52%、10年生存率26%と良好な成績を挙げています。また、必要に応じて肝動脈や肝静脈の合併切除・再建を必要とするような高難度肝切除術にも対応しています(図2)。
図2.肝動脈・肝静脈合併切除再建を伴う肝切除術
腹腔鏡下肝切除術
近年傷が小さくて術後の回復が早い腹腔鏡下手術(図3)が様々な臓器で行われています。肝臓癌、膵癌の腹腔鏡下手術の歴史はまだ浅く、2010年に腹腔鏡下肝部分切除・外側区域切除といった小範囲の手術がまず保険適応となり、2016年になり肝葉切除等のより大きな範囲の腹腔鏡下肝切除術が保険収載されました。これは肝切除そのものの難易度が高く、安全・確実に行うためには肝切除術・腹腔鏡手術両方の手技に精通している必要があるからです。そのため腹腔鏡下肝葉切除等の大きな肝切除術は一定の施設基準をみたす一部の施設でのみ行われています。
当院では2012年より腹腔鏡下肝部分切除を導入し、2020年より肝亜区域切除、区域切除、葉切除等の高難度腹腔鏡下肝切除に対する施設基準を取得しました。安全性、根治性、適応を検討し、腹腔鏡下肝切除術を施行しています(図4,図5)。
これまでは、肝切除術は高侵襲手術に分類されており、高齢者では手術の選択は回避される傾向にありましたが、腹腔鏡下肝切除術は、創部が小さく、回復が早く、入院期間も開腹手術では平均14日間であったものが、腹腔鏡下手術では平均で7日間と入院期間を短縮しています。そのため、当院では80歳以上で併存疾患を持った患者さんでも、腹腔鏡下肝切除術を選択する症例が増加しています。しかしながら、腹腔鏡下高難度肝切除術においても、根治性を保つために開腹手術と同じように主肝静脈を露出させることやGlissonを確実に処理する操作が必要となり、難度も高く工夫が必要です。我々は根治性を確保するために、最新の内視鏡機材を導入し、ICGカメラを併用して、解剖学的切除をするようにしています。
図3.腹腔鏡下肝切除術のイメージ
腹腔鏡下高難度肝切除術においては主肝静脈を露出する操作が必要となり、難度も高く工夫が必要です。私達はこれを安全に実施するためにTwo-way resection、Outer Laennec Dissection等の独自の技術を開発し、学会等にて報告しています。
図4.腹腔鏡下肝左葉切除術後の腹腔内
図.年度別開腹/腹腔鏡下肝切除術症例数の推移
膵癌に対する腹腔鏡下手術と合併症対策
膵癌に関しても2016年より腹腔鏡下膵体尾部切除術が保険適応となり、当院でも実施しております(図5)。
図5.膵癌に対する腹腔鏡下膵体尾部切除術
膵癌は診断時に既に遠隔転移等により手術不能なことも多く、手術可能な症例は約2割程度といわれています。手術が施行されても再発率が高いことが問題ですが、近年では切除可能な症例でも術前・術後に化学療法を行うことで予後が改善することが明らかとなっています。膵癌手術時の問題は膵切除特有の合併症です。特に膵液瘻は腹腔内出血、敗血症等の重篤な合併症の引き金となり、膵臓手術後の高い周術期死亡率(1.7-2.9%: NCD Annual Report 2020)の原因となっています。合併症が発生すると退院までに要する日数も延長し、術後補助化学療法が早期に開始できなくなることも予後を悪化させます。当施設では様々な独自の工夫(膵体尾部切除術におけるClip on Staple法等)を行うことで膵液瘻の頻度を低下させてきました。当施設が開発した膵体尾部切除術におけるClip on Staple法に関しては、その有効性・安全性を更に確認するため、2020年11月より全国約20の施設・大学病院にて多施設共同ランダム化試験を開始しました。
図6.CLIP-DP trialの概要
図7.膵体尾部切除術におけるClip on Staple法
胆石、胆のう炎の手術
腹腔鏡手術を第一選択として、主に胆嚢結石症・胆嚢炎に対する胆嚢摘出術を行っています。炎症がない、あるいは軽度の場合、手術自体の時間は1~2時間程度で済み、ほとんどの場合で開腹移行は必要ありません。しかし、高度の炎症が認められる場合は解剖が不明瞭で、組織が硬くかつ脆弱・易出血性であるため、時間がかかりますし、合併症(胆管損傷、胆汁漏、出血など)のリスクが高くなります。炎症の程度によって手術の難易度は大きく異なりますので、安全・確実な手術を行うように努めています。
総胆管結石に対しては、円滑な連携のもと肝臓内科で内視鏡的治療(胆管ステント、採石など)を行い、当科で胆嚢摘出術を行います。
2021年3月には「胆石外来」を開設し、肝胆膵領域の腹腔鏡手術に関する豊富な専門的知識と経験をもとに、安全・確実な医療を提供するように努めています。急性胆嚢炎の場合、手術までの期間があまりに長くなると、手術の難度が上がります。随時、紹介を受けておりますので、急性胆嚢炎でお困りの際は、ご紹介いただけますと幸いです。また、胆石症でも、一回でも胆石発作がある患者さんは、急性胆嚢炎を発症するリスクが高くなります。特に結石が小さい場合は、結石の嵌頓や胆石性胆管炎を発症する可能性が高くなりますので、胆石発作の既往がある患者さんは、早めの受診をお勧めください。
胆のうの根部の細い部位(胆のう管)や胆管に落石すると痛みや炎症をおこしやすくなります。
炎症のない胆のう結石症手術
急性胆のう炎の手術
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医師紹介
名前 東 秀史(副院長) 出身教室 九州大学医学部第二外科 専門医・認定医 日本外科学会指導医、日本消化器外科学会指導医、
日本消化器病学会専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、
日本肝胆膵外科学会評議員、九州大学医学部臨床教授専門分野 消化器外科、肝胆膵外科
モットー 常にチームワークで行う安心・安全な医療を心掛けています
名前 森田 和豊(肝臓外科科長) 出身教室 九州大学医学部第二外科 専門医・認定医 日本外科学会 専門医
日本消化器外科学会 専門医・指導医・消化器がん外科治療認定医
日本肝胆膵外科学会 高度技能専門医・評議員
日本内視鏡外科学会 技術認定医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本移植学会 移植認定医
日本肝臓学会 肝臓専門医専門分野 肝胆膵外科
モットー 個々の患者さんに適した医療を心がけます。
名前 髙階 悠 出身教室 九州大学医学部第二外科 専門分野 外科一般
モットー 患者さん、ご家族をはじめ医療スタッフの方々のお役に立てるよう日々精進して参ります
名前 藤川 乱麻 出身教室 九州大学医学部第二外科 専門医・認定医 日本外科学会認定医
専門分野 外科一般
モットー 患者様それぞれに合った治療を心がけています